東京高等裁判所 平成12年(ネ)4225号 判決 2000年11月21日
控訴人
福島商事株式会社
右代表者代表取締役
甲山A夫
右訴訟代理人弁護士
和田有史
被控訴人
株式会社大光銀行
右代表者代表取締役
乙川B雄
右訴訟代理人弁護士
金田善尚
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
二 控訴人は、被控訴人に対し、金四三万八一八五円及びこれに対する平成一二年一月二八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
三 控訴人は、被控訴人に対し、平成一三年一月二七日限り金八八万五六四三円、平成一四年一月二七日限り金一一〇万七〇五四円、平成一五年から平成二一年まで毎年一月二七日限り金一二一万七七五九円ずつを支払え。
四 被控訴人のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
六 この判決の第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
二 被控訴人
控訴棄却
第二事案の概要
一 控訴人は、和議認可の決定を受けた会社であり、被控訴人は、和議債権者である。本件は、被控訴人が、控訴人は被控訴人の和議債権(貸金債権)について和議条件に基づいた支払をしていないと主張して、控訴人に対し、弁済期を経過した和議債権の未払分五五万八一八五円とその遅延損害金の支払を求めるとともに、将来弁済期が到来する和議債権について和議条件に基づいた将来の支払を求めた事案である。原判決は、被控訴人の請求を認容したので、控訴人が不服を申し立てたものである。
二 当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実欄の第二当事者の主張記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の当審における主張)
原判決は、被控訴人が株式会社ウイズクリエーション(ウイズクリエーション)振出しの約束手形の取立て及び丙川C郎、丙川D介(丙川ら)共有の土地建物の競売により合計三七二〇万八五七一円の弁済を受けた事実は当事者間に争いがないとしながら、被控訴人の届出和議債権額が右金額分減少したことを認めなかった。これは、和議法四五条で準用された破産法二四条、二六条の解釈を誤ったものである。
数人が各自全部の履行をする義務を負う、いわゆる全部義務者の場合には、一人の者が和議開始決定を受けた後に、和議債権者が他の全部義務者から債権の一部の弁済を受けても、届出債権全部の満足を得ない限り、右債権の全額について和議債権者として権利を行使することができる。
しかし、物上保証人は、担保物の範囲でのみ履行義務を負うのであって、全部義務者ではない。したがって、物上保証人が、担保権の実行により、和議債権者に対し債権の一部を弁済したときは、その部分の債権を取得し、和議債権者の届出債権額は同額だけ減少すると解すべきである。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所は、被控訴人の請求は、現在請求については四三万八一八五円とその遅延損害金の限度で、将来請求については平成一三年一月二七日限り八八万五六四三円、平成一四年一月二七日限り一一〇万七〇五四円、平成一五年から平成二一年まで毎年一月二七日限り一二一万七七五九円ずつの限度で理由があるものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 請求原因について
(一) 請求原因1の事実(控訴人が和議開始決定を受けたこと)は、当事者間に争いがない。
(二) 証拠(≪証拠省略≫)によれば、被控訴人が、和議手続において、原判決別紙一のとおり貸金総額四七五八万〇九八一円(元本四四九〇万一八一二円、損害金二六七万九一六九円)の債権届出をし、平成一〇年一二月一八日の債権者集会において同額が和議債権として確定したことが認められる。
平成一〇年一二月一八日、原判決別紙二の条件(本件和議条件)で和議認可の決定がされ、右認可決定が平成一一年一月二七日確定したことは、当事者間に争いがない。
2 抗弁について
(一) 1・(二)のとおり、被控訴人は、控訴人に対する和議債権として、次のとおり届け出た。
ア 平成一〇年一月一六日付け手形貸付け(弁済期同年七月二七日、アの手形貸付け)に基づく貸付金元金二〇〇〇万円と損害金四九万〇九五八円
イ 平成九年一〇月一五日付け手形貸付け(イの手形貸付け)に基づく貸付金残元金一六九〇万一八一二円と損害金一三八万七三三七円
ウ 平成一〇年一月一六日付け手形貸付け(弁済期同年五月一九日、ウの手形貸付け)に基づく貸付金残元金八〇〇万円と損害金八〇万〇八七四円
また、証拠(≪証拠省略≫)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の控訴人に対する債権の担保について、次の各事実が認められる。
(1) 被控訴人は、丙川らから、平成五年三月二三日、債務者控訴人、債権の範囲銀行取引、手形債権、小切手債権、極度額三〇〇〇万円との約定で丙川らが共有する新潟県十日町市字東四ノ町等に所在する土地建物に根抵当権の設定を受け、同月二四日受付をもって根抵当権設定登記を経由した。
(2) 被控訴人は、控訴人から、ウの手形貸付けに際し、その元金債権を担保するため、ウイズクリエーション振出しの複数枚の約束手形の交付を受け、和議債権届出時には、残元金額と同額の額面合計八〇〇万円の約束手形四枚を所持していた。
(3) 被控訴人が所持していたウイズクリエーション振出しの約束手形四枚については、平成一〇年一二月一五日から平成一一年三月一五日までの間に順次支払期日が到来した。被控訴人は、手形金合計八〇〇万円の支払を受け、これをウの手形貸付けの元金の弁済に充当した。
(4) 被控訴人は、平成一〇年五月、丙川らの土地建物に対する(1)の根抵当権を実行した。
右競売手続において、被控訴人は、平成一一年六月八日付けをもって、被控訴人が有する債権として、アの手形貸付けの貸付金元金二〇〇〇万円と損害金二五四万六八九四円、イの手形貸付けの貸付金残元金一六九〇万一八一二円と損害金三一二万四七五一円、ウの手形貸付けの損害金一二三万二七六三円と記載した債権計算書を提出した。右によれば、貸付金元金は合計三六九〇万一八一二円、損害金は合計六九〇万四三六三円であった。
被控訴人は、同月二四日の配当期日において、右債権に対し二九二〇万八五七一円の配当を得た。
(二) 数人が各自全部の履行をする義務を負う場合において、その全員又は一部(一人を含む。)の者が和議開始決定を受けたときは、和議開始決定時における当該債権の全額を和議債権として届け出た債権者は、和議開始決定後に、当該和議債務者に対して将来行うことのあるべき求償権を有する全部義務者から債権の一部の弁済を受けても、届出債権全部の満足を得ない限り、右債権の全額について和議債権者としての権利を行使することができるものと解される(最高裁昭和六二年六月二日第三小法廷判決・民集四一巻四号七六九頁参照)。
和議法四五条が準用する破産法二六条一項は、数人が各自全部の履行をする義務を負う、いわゆる全部義務者のうち求償権を有する者は、債権者が破産手続に債権全額をもって参加していない限り、事前求償権をもって破産手続に参加することができることを定めており、同条二項は、債権者が債権全額をもって参加しているため事前求償権では破産手続に参加することができない場合に、求償権を有する者が現実に弁済をしたときは、債権者の権利を取得することを定めている。しかし、破産法二四条は、数人が全部履行義務を負う場合において、全部義務者の全員又は一部の者が破産宣告を受けたときに、債権者は、各破産手続に宣告時における債権の全額をもって参加することができることを定めている。この、複数の手続に債権の全額をもって参加できるとの趣旨からすれば、破産債権者が、破産宣告後、全部義務者から債権の一部の弁済を受けたからといって、直ちにその分について弁済者に権利が移り、破産債権者がその分の権利を行使することができなくなると解するのは相当ではない。前記のとおり、債権者が届出債権全部の満足を得た場合に限り、弁済者に権利が移り、破産債権者は権利を行使することがなくなると解すべきである。
破産法二六条一項、二項の全部義務者とは、連帯債務者、債務者と連帯保証人、約束手形の振出人と裏書人等を指すものである。そして、同条三項は、一項、二項の規定が、物上保証人の求償権に準用されることを定めている。したがって、物上保証人に対してすでに債権者が権利実行をなし、完全な満足を得たとき、又は物上保証人が任意弁済をなし債権者が完全な満足を得たときは、その物上保証人は債権者の権利を代位行使することができるが、一方、債権者が完全な満足を得ていないときは、物上保証人は、先の全部義務者同様、債権者の権利の一部を代位行使することはできないと解すべきである。なお、物上保証の場合、債権者の債権の引当てになっている対象は担保物に限られる。しかし、担保されているのは、被担保債権全額の履行義務である。そのため、物上保証人が債権者の権利を代位行使することができるには、担保物の価格に相当する金額が弁済されれば足りるというものではなく、担保されている債権額全額が弁済されることが必要である。
(三) (一)で認定した事実によれば、ウイズクリエーション振出しの約束手形は、控訴人の被控訴人に対するウの手形貸付けによる元金債務を担保するものとして交付され、被控訴人は、手形金八〇〇万円の支払を受け、これをウの手形貸付けによる元金債権の弁済に充当した。そして、根抵当権の実行により、ウの手形貸付けによる損害金もすべて回収されているものと認められる。右によれば、ウイズクリエーション振出しの約束手形という担保に関しては、ウイズクリエーションが任意に手形金を支払い、また、根抵当権の実行により、被控訴人はウの手形貸付けによる届出和議債権全額の満足を得たということができる。したがって、その分だけ被控訴人の債権はウイズクリエーションや丙川らに移り、被控訴人の和議債権額は減少したと認めるべきである。
そして、(一)で認定した事実によれば、丙川らの土地建物に設定された根抵当権は、控訴人の被控訴人に対するア、イ、ウの各手形貸付けによる債務すべてを担保するものである。被控訴人が、右根抵当権の実行によって、二九二〇万八五七一円の配当を得たといっても、これが届出和議債権全額(八〇〇万円を控除しても)の満足を得たことにならないことはいうまでもない。したがって、丙川らにア、イの手形貸付けに係る権利の一部が移るとも、被控訴人の和議債権額がその分だけ減少したとも認めることはできない。
3 右によれば、本件和議条件に基づき被控訴人が弁済を受けることができる和議債権額は、届出債権額のうち元本額である四四九〇万一八一二円から八〇〇万円を控除した三六九〇万一八一二円の三〇パーセントである一一〇七万〇五四三円となる。そして、本件和議条件によれば、被控訴人は、右の金額について、次のとおり分割して支払を受ける権利を有する。
平成一二年一月二七日限り 五五万三五二七円
平成一三年一月二七日限り 八八万五六四三円
平成一四年一月二七日限り 一一〇万七〇五四円
平成一五年から平成二一年まで毎年一月二七日限り 一二一万七七五九円ずつ
控訴人は被控訴人に対し平成一二年一月二七日に一一万五三四二円の支払をしたのみであるから、被控訴人は、控訴人に対し、残額四三万八一八五円の支払を請求することができる。
また、控訴人が本件和議条件に基づき被控訴人に支払うべき金額は二三〇万六八三五円であると主張していることは、当事者間に争いがない。したがって、被控訴人には、弁済期が平成一三年一月二七日以降の支払について将来の給付判決を得ておく必要が認められる。
二 したがって、被控訴人の請求を全部認容した原判決は失当であって、被控訴人の請求は先に述べた限度で認容すべきである。そこで、原判決を右のとおり変更する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 西島幸夫 江口とし子)